1.FAP療法とは
FAP療法(Free from Anxiety Progam : 不安からの解放プログラム)は、わが国で1999年に大嶋信頼氏らにより開発され、2001年に体系づけられた「トラウマさん」を解消する新しい心理療法です。
トラウマさんを解消する方法の一つとして開発されたFAP療法ですが、その他、不安や緊張、恐怖症や依存症的な欲求などにも効果が認められています。
トラウマさんという程ではなく、日常で「何か気になること」があり、それが頭から離れず目の前のことに集中できないというような固着が起きているような時、トラウマさんの解消に効果が見られる療法ですので、それらの解消に幅広く適用されています。
トラウマさんと聞くと、大きな心の傷のイメージがありますが、トラウマには二つあることがわかってきました。
一つは、皆さんがイメージされるPTSD(心的外傷後ストレス障害)と言われるものです。
事件や大きな災害などの出来事がきっかけとなったストレス経験の持続性です。
逃げることができなかった強いストレス経験で、状況と感情が結びつかず、整理がついていない状態です。その場面が過ぎてもストレス反応が持続し、フラッシュバックと言った症状が現れてきます。
もう一つのトラウマさんは、「これ!」とハッキリとした事件や災害などの出来事があったわけではなく、幼少期に緊張などのストレス環境が持続することで起こるものです。
子供の頃はわかりにくいのですが、大人になり振り返った時、否定的で緊張の高い家庭環境だったなという場合や、親の期待が大きく「やらなければ」と頑張りすぎたなど、その影響が大人になっても現れることがわかってきました。
ストレス場面が過ぎた後にその画面が頭に浮かんできてしてしまい、ずっと気になってしまったり、人よりも不安や緊張が高くストレスを感じやすい傾向が出てきます。
例えば
〇不安や緊張、ストレスを受けやすい。
〇人に馴染みにくい。
〇ちょっとしたことで緊張しちゃって、その場が過ぎてもリラックスできない。
〇自分に自信が持てず、自分を責めたり、自分を否定してしまう。
〇過ぎてしまったことなのに、ずっと頭から離れない。
〇やる気がおきない。など
誰でも多かれ少なかれあるものなので、こんなものだと思いがちですが、「気になること」を解消し手放すと心軽やかに前向きに生きることが可能になっていきます。FAP療法は、このような状態の解消にとても効果が見られています。
では、具体的にどのような療法なのでしょうか。
2.指のツボを押さえる方法
FAP療法は年々、バージョンアップしていますが、一番初期の方法がこの「指のツボを押さえる」という方法です。
これは、EMDRやTFTなどのエナジー心理療法と呼ばれるものの一つです。
相談者様が抱えている問題の情報(感情や身体反応)をセラピスト自身が指の反応で感じ取り、その情報をもとに相談者様に指のツボを押さえてもらうことで、緊張を緩和し、解離していた記憶と感情を統合させていくといった方法です。
感情と臓器は密接に関係しています。例えば、怒りを感じているとシクシク胃が痛んだり、食欲が低下したり、不安を感じていると下痢の症状が現れたりと言った経験は皆さんにもおありだと思います。
臓器と指は中国医学で言うところの経絡で繋がっており、指に刺激を与えることで臓器の痛みなどの症状とそれに関連する感情を和らげることができます。
また、人間の脳にはミラーニューロンという、他人の行動を見て、自分自身があたかも同じ行動をとっているかのように反応する脳神経細胞の働きがあります。
例えば、他人が緊張していると自分にも移るという経験が分かりやすい例です。このミラーニューロンによって、相談者様の身体反応をセラピス側にも伝わるという原理の元、検索していきます。この流れを説明すると以下のようになります。
相談者様が問題を思い浮かべて言語化してみる
⇓
相談者様の身体反応が起きる(気になることを言葉にすると、肩が張る、胃が圧迫される感じなど個々により、様々な感覚があります)
⇓
ミラーニューロンを介してセラピストの指の反応で感じ取り、問題と感情に関係するであろう経絡の指を特定する
⇓
相談者様に感情に関係する指のツボをセラピストと一緒に押さえてもらう
⇓
感情による緊張が緩和され、解離していた記憶と感情が統合される
また、セラピストが相談者様と一緒にツボを押さえ共有することで共感が深まり癒しとなって、相談者様の固着された概念からの解放が進んでいきます。
(大嶋信頼先生FAP療法の書籍です。指を押す方法が詳しく掲載されていますので、ご紹介致します)
3.心に聞く (ver.χ)
FAP療法では、「心に聞く」という方法があります。
日常でも心の声を聞きながら過ごされると、ご自分で選択したという実感が持て、充実した人生になると思います。
私達には、「意識」と「無意識」があります。
『無意識さん』と関係の深い『心よ』というフレーズを使うことで簡易的な催眠状態に入り、ご自身の優しい言葉とつながり、本来の「心の声」に気づいていくというものです。
では「心の声」とは、どういうことでしょうか。
本来の自分の感覚である「無意識さん」とつながり、その感覚を感じとっていくということなのです。
「無意識さん」は、怪しいものではなく生命維持のための働きである「本能」や「感性」「感覚」などです。
一方、「意識」とは、親の価値観であったり、社会の規則や常識など学習することで身についた知識などの脳の働きです。こちらの方は、馴染みがあると思います。
「良い、悪い」を判断したり「やらなければならない」など、私達を規制する働きです。
もちろん、現実社会で生きていくために必要な働きですが、こちらが強過ぎると、とっても疲れやすく、生き辛い人生になってしまいます。
双方のバランス統合が重要なのですが、私達は「こうあるべき」と常識など規制に縛られて「無意識さん」の「感覚」を感じ取っていない傾向があります。
『心よ』とタグをつけて問いかけることで「良い、悪い」を判断してしまう意識した心の奥にある「無意識さん」とつながっていくことができます。
「無意識さん」につながると、本来の自分の感覚に触れることができ、今、気になっていることや悩みの解消改善のヒントが見えていきます。
FAP療法では「心」に問いかけて、悩みや問題点の原因を見つけ出し「心」に確認しながら必要であれば「トラウマさんの解消」も行っていきます。
4.トラウマさんの解消 (ver.12.5)
トラウマさんの解消といっても、辛い過去を思い出す必要はありません。過去に傷ついた心の原因となったものを遮断していく方法です。それによって、現在ストレスなっている人からの影響があればスルーできるようになっていきます。
簡単にお伝えすると、「雑音を雑音で消すノイズキャンセリングヘッドフォン」が、イメージしやすいです。ノイズキャンセリングヘッドフォンとは、ある雑音に対して別の雑音をぶつけると、2つの音が打ち消し合ってノイズが消滅する仕組みです。
【具体的な方法】
先程の「心よ」と聞きながら、ご一緒に「心」に尋ねていき、ネガティブな感情の原因を探していきます。探す時も「無意識さん」に尋ねていくので、辛い過去を具体的に思い出すのではなく「そういえば母によく○○って言われていたかも」など、この「かも」という感覚で十分です。
少しずつご一緒に、きっかけとなるキーワードを探していきます。
次に、現代催眠(段階的に誘導する従来の催眠とは違い、呼吸を合わせることで入る自然な感覚の催眠です)で、リラックス状態に入ります。意識はありますので、催眠に入っている感覚すらないくらいです。
そして、問題になっているネガティブな感情に、探し出したヒントからキーワードとなる言葉を心の中で唱えていただきます。カウンセラーもキーワードとなるノイズを消す言葉を唱えていきますので、BGMのように聞き流す感覚で、耳を傾けていただきます。無理に過去を思い出す必要がないので、ご自身への負担がない方法です。
体験してみないと、言葉では伝えきれないのが「無意識さん」の特徴でもあります。
「心に聞きながら」「トラウマさんの解消」と共に、「過去を変える」「遺伝子コードを唱えていただく」などの方法をその方に合わせて行っていきます。
5.過去を変える
去に失敗した経験は誰にでもあることです。人によっては失敗して経験を前向きに捉えて活かせる人と、次に進めなくなり立ち止まってしまう方がいらっしゃいます。その違いは、どこにあるのでしょう。
幼少期に緊張の高い家庭環境で育ち「トラウマさん」を抱えている場合、ストレス反応がズレて現れるといった非常に興味深い実験データがあるのです。
大嶋先生の実験によると、車のクラクションのような「ファーーン」という非常に大きな音のストレス刺激を3秒間与えると、本来「ストレスホルモンの値が上っちゃう」となるはずです。
それが「あれ?爆音を聞いてもストレスホルモンの値が上らない」といった結果になり、その後からストレスホルモンの値が上がるのだそうです。
私自身は、実験していませんがトラウマさんを解消する以前ですと、確実に同じ結果になっていたと思います。「ストレス場面が過ぎた後から気になり、頭から離れない」となっていましたので、それでなのかと、驚くほど納得できました。トラウマさんがあると、ストレスの反応がズレて出ちゃうんですね。
過ぎたことが頭から離れず、動けなくなるのはストレスホルモンのズレなので、思い当たる方はまず「ご自分が弱いからだと責める」のを止めて下さいね。
それでも過ぎてしまったことが頭から離れないといった場合、子供の頃のネガティブな経験が記憶として残っていて、新たなネガティブなことを引き寄せている場合が考えられます。
その時は、過去のネガティブなイメージを元気一杯のイメージに変えていく方法が「過去を変える」です。体験したことやその記憶はもちろん変えられませんが、イメージに残っている印象の部分は変えられるのです。
【具体的な方法】
現代催眠(しっかりと誘導する従来の催眠とは違い、呼吸を整え、合わせることで入る自然な感覚の催眠です)で、リラックス状態に入り、現在の問題点が何才の自分と繋がっているのかを問いかけます。子供の頃の体験を思い出す必要はなく、「ふっと頭に浮かぶ数字」で大丈夫です。
今のストレスを引き起こす緊張状態は、幼少期の最初に傷ついた経験と繋がっていると考えられます。大嶋先生が多くの臨床経験から見つけ出した元気になる暗示を、その頃の自分に向けて唱えていただきます。
自己肯定感が高まりとっても元気になる暗示です。子供の頃に残っている記憶の中の自分が元気になると、今の自分にも良い影響が出てくるのです。イメージの力は大きいと思います。
過去の自分がポジティブなイメージになることで、今の自分を元気にしていく方法です。
6.遺伝子コード (ver.α)
学的にも遺伝子コードのオン・オフがるということは分かってきています。以前、NHKスペシャルで紹介されていました。
【その内容は】
遺伝子には、身体の各部分、目、耳、血液、心臓、肺、脳など体を作るための設計図が示されています。それ以外にも持久力、病気の予防、若返り、記憶力アップさせたりと様々な情報が書き込まれています。
その設計図が、どの程度読み取られるかによって、体質や才能などが決まります。
その設計図の読み取りをコントロ-ルするのが、変えられない2%の遺伝子以外の98%だそうです。
98%の遺伝子にはオン・オフがあり能力が発揮できるのは、このオン・オフに関係していることが分かっているのだそうです。
この遺伝子スイッチは、2万個以上もあると考えられます。病気の予防のスイッチはオンの方がいいですが、オフの遺伝子の方が良い場合もあります。
常にちょっとしたことで不安を感じてしまうとか、ストレスを感じると食べてしまう習慣などの遺伝子はオフの方がいいと思います。
遺伝子は「生き方を変える」ことで変わることが分かってきましたが、生き方を変えるというのは、なかなか変えられるものではありません。
そこで、特徴的に反応している不具合の原因となっている遺伝子コードを元に戻す、リセットするという意味で、還元という言葉を添えて7回唱えます。「○○(改善したい今の状態に合った遺伝子コード)の還元×7回」
「還元」と言う言葉を用いて唱えていく方法は、FAP療法の開発者、大嶋先生が発見されました。
癖ってなかなか変えられないものですが、その癖である遺伝子コードをオフにすることで楽になり、なりたい自分に早く近づいていくことが可能になっていきます。
その方の状態に合った遺伝子コードを見つけ、毎日いつでもどこでも構いませんので、唱えていただきます。声に出しても心の中でもどちらでも構いませんので、外出していても唱えることができます。
始めは2週間を目処に楽になっていくとその遺伝子コードが合っているということですので、更に1ヶ月程唱えていただきオフということをしっかりインプットしていきます。あまり変化がない場合や合ってない場合は、感覚的にわかってきますので、別のコードを探していきます。
7.FAP療法を理解するための理論について
FAP療法のやり方と概要は以上の通りですが、臨床心理学上の理論では、ナラティヴ・アプローチの「外在化」や「ミラーニューロン」と非常に関連があります。
ナラティヴ(物語)アプローチ:
「ナラティヴ・アプローチ」とは、新たな自己物語を作り出していく技法です。これは、「言葉が世界を形づくる」「言葉が先にあって、その言葉が示すような形で世界が経験されている」という社会構成主義の考えから来ています。
言葉が私達の生きる世界を形づくる(社会構成主義の考え)という理論から、個人が語る言葉の内容が変われば自己の世界も変わっていくというものです。書き換えられた新たな自己への物語は「オルタナティヴ・ストーリー」と呼ばれています。
ナラティヴ(物語)アプローチの外在化:
「私はダメだ」という問題の内在化から「自分のせいではない」と、問題を本人から切り離していく技法です。「外在化」することで問題を当事者から切り離し、距離を置いて見ることができます。問題(症状)を客観的に見ていくということです。
例えば、遺伝子コードをオフにするという場合、「トラウマさんやストレスがきっかけで、特徴的な遺伝子のスイッチがオンになっているならオフにしていきましょう」と、外在化を行うことにより非常に客観的に問題(症状)と向き合っていくことができるでしょう。
さらにシンプルに呪文のような言葉を唱えることでその遺伝子のスイッチがオフになり、不快な症状が緩和され、解放されていく新たな物語(オルタナティヴ・ストーリー)が生まれるというものです。(遺伝子コードは、自分のせいにせず外在化していくのに適した考え方ですが、ナラティヴ・アプローチの概念ではありません)
問題は何とかしようとすればするほど、強化されていきますので、いかに客観的に見ていくのかがポイントになります。
ミラーニューロン:
相手の行動を見て、自分自身までも同じ行動を取っているかのように反応するという人間の脳内の神経細胞の一つの働きです。ジアコーモ・リッツォラッティ博士らによって、1996年に発見されました。
ミラーニューロンも外在化していくための一つの考え方です。
緊張している人が近くにいると自分も緊張を感じるといった経験はあると思います。自分の感覚だと思っていた感覚が、実は他者の感覚をミラーニューロンで感じていただけという場合があります。
自分の感覚なら、心の恒常性の働きによって、元に戻るからです。元に戻らない感覚は、他者の感覚の影響を受けていることが多く、不快な感覚は他者の感覚とするならば、自分を責めずに見ていくことができていきます。
FAP療法は、気になることや問題だと感じることを客観的に見るために様々な外在化を行っていく方法です。
ま と め FAP療法(Free from Anxiety Progam : 不安からの解放プログラム)は、大嶋信頼氏らにより開発された「トラウマさん」を解消する心理療法である。 開発当初は「指を押す方法」から始まり、その後バージョンアップされ「過去のイメージを変える」「遺伝子コードを唱える」「心に聞く」「ノイズキャンセリング的にトラウマさんを解消する」などの方法が加わった。 臨床心理学上の理論では、ナラティヴ・アプローチの「外在化」や「ミラーニューロン」と非常に関連がある療法である。